平安物語=短編集=【完】
そんな御息所が流行病にかかって、内裏を下がった。
私や尚仁にうつったらとんでもないと、尚仁を内裏において御息所一人が実家に戻った。
御息所の病状は悪化の一途を辿り、「最期に尚仁に会わせてやりたい」という思いと「もし尚仁にうつったら…」という思いとの葛藤に苦しみ、御息所に
『二の宮が会いたがっている。』
と、手紙で遠回しに会いたいか訊いてみた。
きっと、あれほど尚仁に執着していた御息所なら
『私も、会いたくて会いたくて仕方ありません。』
というような返事が来ると思ったのだ。
しかし御息所からは、
『私も、二の宮に会いたくて会いたくて仕方ありません。
しかしもしこの病が二の宮にうつってしまったら、私は死んでも死にきれません。
このまま会えずにこの世を去ることと思われますので、どうか二の宮の御事、よろしくお願い申し上げます。
まだ字も読めない二の宮に、どうか、母は心から愛していたとお伝えくださいませ。』
と、頼りない筆跡で書かれていた。