平安物語=短編集=【完】
「それで、中宮。」
再び呼びかけると、藤壺は澄ました冷たい表情で顔を上げた。
ひどく残念であったが、とにかく話を進めようと
「知っての通り、この東宮は母を亡くして哀れな身の上となっています。
母の温もり無しで育つには、あまりにも幼いのです。
そこで、私の中宮であるあなたに、この東宮の母代わりをして頂けたらと思いまして。
どうか、我が子と思って可愛がってやってはくださいませんか。」
と告げた。
とにかく父や弟に相談したいと言われるだろうと心づもりしていたのだが、予想外に
「帝と東宮様が私で良いと言ってくださるのならば、私にとっては光栄以外の何物でもございませんわ。」
と、二つ返事で承諾してくれた。
ほっと溜め息をついて
「ありがとう。」
と微笑みかけたが、藤壺はもう、冷たく美しい表情で軽く頭を下げるだけだった。