平安物語=短編集=【完】
「わ、私は…東宮様への入内が決まっております…っ」
消え入りそうな声で、女が言った。
「二の宮の…」
尚仁の…妃に?
それではこの娘は、左大臣の大君であったか。
私が諦めたと思ったのか、大君は安堵したように顔を上げた。
――笑止千万。
更衣そっくりなこの娘が、尚仁の妃だなど…
嫉妬のような気持ちが沸き起こり、私は娘の唇を奪った。
更衣…更衣の唇も、こうであったろうか…
ゆっくりと離れて、娘を見つめる。
茫然としたその表情にも、見覚えがある―…
「渡さない。」
低い声でそう告げると、娘は一層目を見開いた。
こんなに更衣に似ている女を、誰が渡すものか。
たとえ、実の息子であろうとも――…