平安物語=短編集=【完】
呆然としている娘に、フッと笑みがこぼれる。
…今日は、帰してあげよう。
このまま無理に想いを遂げてこの更衣に似た顔に泣かれたら、堪らない。
そう思って
「帰りなさい。」
と言うが、娘は動かない。
否、動けないのだろう。
もう一度笑みをこぼして、娘を抱き上げて立たせた。
「…藤壺まで帰れるか?」
顔を覗き込んで尋ねると、コクンと頷いた。
「では――また会おう。」
そう言って背を押すと、ゆっくりと歩き出した。
まるで人形のようだ。
しばらく物陰から様子を見ていると、妹らしき女児と合流し、しきりに心配されながら帰って行った。