平安物語=短編集=【完】
その夜は、藤壺を呼んだ。
左大臣は、私の前を去ったその足で藤壺を訪ねたため、藤壺はもう知っているはず。
藤壺はいつも通りの美しい無表情であったが、どう思っているだろうかと思うと、思わず笑顔が引きつる―…
謝罪の意味を込めていつもより細やかに愛撫し、腕枕をして優しくしたのだが、突然反対側を向いてしまった。
――ああ、さすがに…
「…大君のこと、聞いたのですね?」
これ以上は誤魔化せないと思って、自分から切り出した。
しかし、藤壺は答えない。
「どうか、愚かで浮気な男の気まぐれと思って、受け流してください。
ずっとあなたを大切にしてきた私の誠意は、もうお分かりのはずです。」
「…。」
「宮…。」
言い訳がましく話しかけるものの、全く無視された。
いつもは、私に気まずい想いをさせないぎりぎりの素っ気なさなのに…
それほどまでに、私のした事は藤壺を傷つけたのかと、胸が痛んだ。