平安物語=短編集=【完】



「よく来てくれました…。

またお会いしたいと、ずっと思っていました。」

ずっと、思っていたよ。


早速「更衣」と呼びかけそうになるのを、必死でかみ殺した。


すると、登香殿が口を開く。

こぼれてきた声が、更衣とは違うことに想像を絶するほど落胆した。


「有り難いお言葉、もったいのうございますが、今度(こたび)のなさりようはあんまりと存じます。

我が一族皆が驚き戸惑い、妹に至っては青天の霹靂の事態となったのです。

天子様のなさることでしょうか。」


…声だけでなく、言う事もまるで違う。

きっと更衣なら、恥ずかしがって、あるかないかの声で
「もったいのうございます…」
と呟いただろう。


しかし登香殿の憤りは尤もな事なので

「それは…すみませんでした。」
と謝った。


「でも」

ぐっと腕を引いて、登香殿を腕に収めた。

私を見上げるその顔が更衣に酷似している事に免じて、無礼は見逃してやろう。


「今はもう済んだこと。

あなたはもう、私の妃です。

手放さないし、逃がしはしない。」

絶対に。



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