平安物語=短編集=【完】
私が気に入っている頭中将が、舞を舞う。
この頭中将は見事に舞うに決まっているので、その素晴らしさにかこつけて女御に話しかけてしまおうと心づもりしておいた。
その舞が終わり人々が拍手し感嘆している時に、ついに女御の几帳に手をかけ、
「登香殿女御、先ほどの頭中将の舞は見事でしたね?」
と声をかけた。
突然の事に驚いたらしい女御は、
「あ、はい…」
と間の抜けた返事をした。
その表情さえも愛しいのだが、藤壺つきの女房達がクスクスと小馬鹿にしたように笑う。
藤壺は笑いも諫めもせず、関心が無いようだった。
風情を解する藤壺ならば、頭中将の舞の素晴らしさにも感動しただろうに…まるで崩れることのない、鉄壁の無表情であることよ。
頭の端でそんな事を考えながら、女御に微笑みかけた。