平安物語=短編集=【完】



「もう見知っていらっしゃるとは思うけれど、登香殿女御です。」

と藤壺に紹介すると、今更ながらこちらを向いた。

女御が礼儀正しく

「お久しゅう存じます。」

と言うのをじっと見つめて、美しすぎる無表情で

「ごきげんよう。」

と言った。

女御はそんな藤壺に怯んだようだったが、藤壺は決して睨んだししている訳ではなく、ただただいつも通りの様子なのだ。

むしろ、ここまでいつも通りで冷静なのを可笑しく感じた。

ここでやおら笑みなど見せたなら、それなりに気持ちも乱れもしているのだろうかと思うが…



それからはずっと、几帳を取り払った状態で見物した。

私は双方に話し掛けるが、藤壺は遠慮しているのか普段より更に並一通りの返事しかせず、女御も緊張しきってしまって固くなりっぱなしだった。


しかし私は、本当の両手に花の状態にひどく満足だった。



< 321 / 757 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop