平安物語=短編集=【完】
そしてある夕方、登華殿とうたたねしていた夢に、藤壺が出て来た。
美しい藤壺が、私を見つめて微笑んでいる。
「宮…?
病が癒えたのですか?」
期待を込めて藤壺の手を握ると、悲しそうに微笑んで首を振った。
「さようなら、あなた…」
バッと目を覚ますと、登華殿が心配そうな青白い顔をしていた。
「院…?
皇太后さまが、どうかなされたのですか…?」
驚いて女御の顔を見ると、
「宮、藤壺とうなされていらっしゃったから…」
と言う。
私は、嫌な予感を拭いきれずに立ち上がり、
「大丈夫だから、あなたは心配なさらないように。」
と言って部屋を出、夜の闇に紛れてごくごく内密に藤壺の屋敷へと向かった。