花火
「お兄ちゃんダメじゃない、春香さんを泣かしたら」
ハッとして目を覚ました。どうやら夢を見ていたようだ。それにしても変な夢だった。夢とは時に幸せに満ちた気分にさせ、時に辻褄の合わない様な、皆目見当のつかない状況を映し出す。窓からはさんさんとした明かりが入り込み、夏の終りに最後の情熱を振り絞る蝉の鳴き声が聞こえてきた。昨夜まで体を支配していたアルコールも、一晩たてば支配権を明け渡してきたようだ。時間と春香からの返事が気になり、携帯電話を手繰り寄せた。時間は九時を少し周ったところで、寝過ごすという結果にはならなくてすんだ。だが、肝心の春香からのメールは来ていなかった。
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