花火
恐る恐るエレベーターから足を踏み出し、廊下を息を潜めて進んだ。いくらかの罪悪感と、そこ知れぬ違和感を感じながら。そして三○五号室の前に差し掛かった。部屋番号を確かめながら歩いていたのでそれと分かったが、そうでなければ通り過ぎていただろう。以前この場所を訪れた時と違うこと、それは、玄関先に置かれたタッピーの姿が見当たらないことだった。事態は、深刻さを増していった。別れたのだから、捨てられはしなくとも、片付けられてしまったのかもしれない。だが、その時感じたそれは、もっと複雑で、絶望に満ちたものだった。
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