花火
この部屋は、東京に旅立ったあの日から何一つ変わっていなかった。窓のピンクのカーテン、勉強机の棚に並んだ教科書、ベッドの上のクマの縫いぐるみ、本棚に並んだファッション雑誌、ピンクの丸いテーブルの上の、これまたピンクの鏡、この部屋では、四年間の月日が止まったままでいた。変わることない空間はそれだけで安心感を与える。ベッドに横になると、その安心感からか、電車での移動疲れか、病院を訪れていらい張り詰めていた神経のせいか、滑り落ちる様に眠りに吸い込まれていった。
夢を見た様な、何も見なかった様な、目が覚めると窓の外は薄暗くなっていた。時計の針は六時過ぎを指している。三時間近く眠っていたのか。階下に降りると、お父さんはビールを片手にテレビを見ていた。お母さんは台所に立ち、夕飯の準備を始めるところだった。
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