花火
たっくんは今頃、長野の実家にいるんだ。佐久平って言ったかな、ここからだと新幹線でも何時間かかるのかな?随分遠く離れちゃったね。この空の下、同じ空気を吸っているはずなのに、何一つ共通点のない、別次元にいるように思えた。もう二度と会えないかも、ふとそんな気がした。涙が素早く頬を伝い、顎の先で暫く留まるが、重力に抗うこともできずに、コンクリートに打ちつけられた。その染みは次第に大きくなっていった。波の音と、背後からの、たまに通り過ぎる車のエンジン音だけが聞こえてきた。今声をあげて泣いたとしたら、その泣き声が町中に響いてしまうのではないかと思い、膝に顔を埋めて押し殺した。
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