花火
「もしもし、明日の夜なんだけどさ、仕事終わってから会えないかな?」
「明日?う~ん、別にいいわよ。拓哉から誘ってくるなんて珍しいじゃない?」
電話の向こうから、貴美の以外そうな声が聞こえてきた。
「そんな驚く程珍しいことじゃないだろ。じゃ、八時に品川プリンスホテルのバーでどう?」
「いいわよ。何かあったの?」
「何もないよ」
微かに声が上ずってしまった。女の感が鋭いのか、何かを嗅ぎつける能力に秀でているのか、時にヒヤッとさせられた。
「じゃ、仕事で遅れそうだったら連絡するわ。おやすみなさい」
受話器からは早くも、ツゥー、ツゥー、と機械音が聞こえてきた。なんとも鮮やかな電話の切り方だ。付き合い始めた頃は、こんな一面にも違和感を感じたが、今となっては清々しい程だ。
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