花火
約束のバーに着いたのは、待ち合わせの二十分前だった。仕事が終わり、何も考えずに品川に向かったとこ、早く着き過ぎてしまった。店員に人を待っていると告げると、品川の夜景を見下ろせる、窓際の席に案内された。
「ドライシェリー」
そう伝え、暗闇に浮かぶ七色の明りを見つめた。貴美にどこから話せばいいだろう。考えなくてはいけないことはあるのに、ここ数日間、思考回路は一切働こうとしなかった。お陰で仕事では、ありえない様なミスを連発し、上司に何度となく嫌味を言われた。怒られるでもなく嫌味を言われるのは、余計に神経を疲れさせた。運ばれてきたグラスを無造作に口に運んでいると、ヒールが床を静かに叩く音が聞こえ、背後で止まった。
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