花火
「明日引っ越しをするんだ」
流石に予想外の展開だったのだろう、眉間に皺を寄せ、小さく口を開いたまま、こちらに視線を向け直した。それを無視して話を続けた。
先週の金曜日に春香から電話があったこと、そして土曜日に何をしていたか、そこで分かったこと、春香の言葉を。日曜日に図書館で調べて分かったこと、その上で決心したこと、月曜日に会社を休んで引っ越しを決めて来たこと、それを告げた時の春香の反応を、貴美は黙って聞いていた。時に外の景色に目をやり、時にグラスを口元に運びながら。
「それで?今日は私に別れを告げるために呼び出したの?それとも、慰めて欲しくて呼び出したの?」
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