花火
電車とタクシーを乗り継ぎ、目的地に辿り着いたのは二時を少し過ぎた頃だった。神妙な面持ちで呼び鈴を鳴らすと、二度目の対面となる女性が、玄関から顔を覗かせた。背筋を伸ばし、深く頭を下げた。彼女はまるで訪問を予期していたかの様に、小さく玄関に招き入れる仕草を見せた。予想外の事態に怯みはしたが、その仕草に応じて門をくぐり、玄関に足を踏み入れた。
「春香は今朝から熱が出て、今は自室で眠っています。今日は父親もいるので、上がっていってください。少しお話をしたいことがございます」
< 360 / 427 >

この作品をシェア

pagetop