花火
「春香さんは、僕を受け入れてくれるのでしょうか?先週も引っ越しを決めたことを告げると、もう私には関わらないで欲しい、そう言われました。今日だって、何の連絡もせずに押し入るような形でしたし、結局彼女の意思は聞いていません」
両親の意思は聞いたが、肝心の本人の意思はまだ聞いてないのだ。
「私たちも二十一年間あの子の親をやってきたんだ、あの子がどうしたいのかは分かる。私たちが拓哉君のことを認めたとなれば、あの子も素直になりますよ」
ありがとうございます、そう言って改札を抜け、総武線快速を待った。
お父さんの言うことも分かる、安らかな寝顔が、消え入りそうな呟きが、彼女の本心なのかもしれない。でも目覚めれば、また高く厚い壁が、行く手を遮ることになるかもしれない。とにかく彼女の本心を聞くまでは、両手を挙げて喜ぶことは出来ない。
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