花火
「そっか。じゃ取り合えず、どこかに向かおうか」
「うん。もちろんデートコースは考えてきてくれたんでしょ?」
「もちろん。まぁ、そんなたいしたコースじゃないけどね」
「私お台場は初めてだから、期待してます」
「そうなの?俺も初めてだから、お手やわらかに」
初めて彼女に嘘をついた。お台場には、元彼女と何回か来ていた。だが初めてと言った方が、変に勘繰られないだろうし、これくらいの嘘は可愛いものだ。
「じゃ、早速だけど海に行く?一番の目的だし、その籠の中身も気になるし」
「たっくん、朝ごはん食べてないな?」
少し緊張した様子で、勇気を振り絞り「たっくん」と呼んでくれたのが伝わってきた。胸が一つ高鳴った。メールでそう呼ばれるのと、目の前で呼ばれるのでは、雲泥の差があった。同時に、お互いの間にあった緊張感さえも、少し和らいだ気がした。
< 42 / 427 >

この作品をシェア

pagetop