花火
「凄い」
感動からか、目尻には軽く涙さえ浮かんでいた。あれだけはしゃいでいた春香も、カメラのレンズを覗いていた人も、酒を仰ぎ続けていた人も、その一瞬だけは時が止まっていた。それ程の光景だった。
誰からともなく大きな歓声が上がり、拍手が起こった。それはやがて会場全体を飲み込み、今日一番の称賛が贈られた。
「そろそろ行こうか?」
余韻に浸っていたいのは山々だが、この会場全体の人々が一斉に駅までの道を辿ることを考えると、悠長にしている場合でもなかった。ゴミを分別し、会場に設置されたゴミ捨て場に置き、春香の手を取り歩き出した。
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