Bloody Kiss
男の姿が完全に見えなくなったのを確認し、やっと身体の力を抜いた。

怖かった。
バケモノと対峙するのとは違う恐怖。
ハッキリと理性を持った人間から殺意を向けられる恐怖。

「アリア」

恐怖から解放され呆然としていると恢の声が聞こえ、慌てて振り返る。
仰向けに倒れている恢は傷だらけで痛々しかった。

「恢……。大丈夫、なの?」

「ああ。暫く安静にしていれば治る」

恢の手がゆっくり伸びてきて、頬に触れる。ひんやりとした感触に少し身体が震える。
親指が目元をなぞる。

「……怖い思いをさせて悪かった。もう大丈夫だから、泣くな」

そう言われて自分が泣いていることに気が付いた。これが何の涙なのかわからない。

あの男への恐怖?
軋むような身体の痛み?
それとも……。

ふいに頬から恢の手が離れた。その手をとっさに掴み、両手で包みコツンと額をつける。

「恢、消えないで。独りにしないで」

縋るようにポツリと呟いた。

私には恢しかいない。
恢がいてくれればそれだけで良い。
だから、いなくならないで。

すると握っているのとは反対の手が伸びてきて、頭を撫でられる。それだけで安心してしまう。



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