Bloody Kiss
血の臭いで一杯になると、パニックを起こしかけた頭が急激にクリアになった。そして伝染するように身体中の熱が冷めていく。


あぁ、知ってる……。


この感じは……。


「離しなさい」

静かに、けれど強い強制力を孕んで告げる。彼らにとって私の言葉は服従すべき対象となることはわかっている。

「くっ!」

男が初めて笑顔を崩した。屈辱の表情を浮かべながら、強制的に上を向かせていた手の力が弛む。そして私を拘束していた手が全て離れる。

「遅くなって申し訳ございません、アリア様」

茂みから新たな人物が登場する。彼のことはよく知ってる。

「本当、遅いわ、リート」

私を守るために生まれた守護者≪ガーディアン≫。

リートは一瞬で隣に現れると、恭しく手を取り立たせてくれた。いまだ苦渋の表情を浮かべたままの男を見下ろす。

「終わりにしましょう」

簡単だ。命令すればいいだけ。それだけで男を終わらせることが出来る。

男が顔を歪めながらも笑った。

「いくら姫様の命令でもそれに従うことは出来ません。私の命は主だけのものですからね」

にこりと笑うと男の体は宙に溶け消えていった。

追おうと思えば出来るけど、深追いはしない。それよりも大切なことがある。

「恢……」

傷口から結晶化が始まっている。辛うじて意識はあるけれど、もう時間はない。

「アリ……ア……」

「恢、ごめんね」

この状態で助かる方法はただ一つ。

「リート」

「仰せのままに」

もう半分は覚醒している。でも完全覚醒じゃなきゃ恢は救えない。

リートが血を吸いやすいように自ら首筋に傷を付けてくれる。背伸びして首筋から流れ出す赤い雫を飲み込む。

冷えた身体が再び熱を取り戻す。

頭も視界も何もかもがクリアになる。



私は吸血鬼として覚醒した。


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