紺色の海、緋色の空
勝てないと思った。

早紀は僕の目の前で男に貫かれた。

男の体は遙かに僕よりも強靱で力強く、そのくせ女が喜ぶツボを知っていた。早紀はあっという間に登り詰めた。

老獪で女を知り尽くした男にとって、青臭さの残る早紀を落とすなど造作のないことだったに違いない。

早紀は、初めて味わう本物の女の喜びに動揺を隠せないようだった。

ガクガクと腰を振るわせ、まるで僕など居ないかのように男の背中に腕を回した。

その時僕は、早紀とアイツに僕のすべてを否定されたような気がした。

そして僕は一生この男に屈して生きていくのだと、自らすべてを投げ出してしまった。


「馬鹿ね」

とシロナが呟いた。

「分かってるよ」と僕は突っぱねた。

あれが早紀の本心ではないことくらい、あの時の僕にだって分かっていた。

分かっているはずだった。

< 114 / 239 >

この作品をシェア

pagetop