紺色の海、緋色の空
最初に絵はがきが届いたのは、早紀が死んだ翌年のことだった。

宛先と宛名、裏には見慣れない動物が草原の真ん中に佇んでいた。

消印は三日前。

ロンドン、リージェントストリート。

送り主は「IANE」――イアンと読めばいいのだろうか。

僕は首をかしげた。

そんな名前の外国人を僕は知らないし、仮名だとしても、はるばるロンドンから僕宛にエアメールを飛ばす酔狂な人間がいるとはとても思えなかった。

早紀だろうか。

もはや僕には、その名前以外に何も思い浮かばなかった。

『死者からの手紙』

とは、いかにもありそうな話だ。

筆跡を見れば早紀のようでもあり、そうでないようにも見えた。

実のところ、僕は早紀の筆跡を思い出すことができなかった。あれほど毎日一緒だったというのにだ。

調べてみようかとも考えた。

でもそれは、僕にとってパンドラの箱を開ける愚行そのものだった。

早紀の部屋は未だに彼女が生きていた頃のまま残っていて、僕はもう十年もその部屋に入れずにいたのだから。

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