准教授 高野先生のこと

ほんっとにアホみたいなつまらない嫉妬。

そんなのわかってる。

だから、それこそ自分で自分が嫌になる……。


高野先生が先生である以上、学生と接するのは当たり前のこと。

その学生の中には私なんか足元にも及ばない優秀な人やセンスの光る人もいる。


“先生”を好きになっていちいち教え子に嫉妬なんかしていたら身が持たない。

それなのに、つまらない嫉妬をしてしまうのは――

自分が“特別”だという確信がないから……。

先生の彼女じゃない以上、私もただの学生だから……。

どんなに親身に勉強をみてもらっていても、たとえ日曜にドライブにでかけていても。


先生が女子大にいる以上、周りはライバル!ライバルだらけ!

センス溢れる恋文一発で一撃必殺!先生はイチコロになる可能性を孕んでいる。


妻子もなく恋人もいない高野先生にとって恋愛は自由だもの。

今の先生と私の関係じゃ、私はそれを咎めることなんてできやしない。



「ラブレター、もらえるといいですね」

とても嫌な言い方だった。

たぶん、笑えてなかったと思う。


「詩織さん……」

先生は何か言いかけたけど口をつぐんだ。


空気を読み違えるのが得意な先生も、この状況はさすがにわからぬわけがない。

隣りにいる人間にこんなにあからさまに不機嫌な態度をとられては。


私はバカだ……。


先生はしばらく黙ったままで――

いつかのように、菓子を与えて機嫌をとろうともしなかった。



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