准教授 高野先生のこと
子どもの頃の高野先生。
私の知らない、私がこの世に生まれる前のずっとずっと前の。
私は保育園の先生に知った風な口ぶりで講釈をたれる男の子を思い浮かべた。
「大胆不敵な園児ですね、ヒロユキくん」
「オトナのヒロユキくんとは大違いです」
先生が“うんうん”と頷きながら小さく笑う。
「それにしても、野良犬だなんて」
「まったく、とんだマセガキです」
その口調が子どもに手を焼くお父さんのような……。
問題児にほとほと困った小学校の先生みたいだったから……。
私は思わず笑ってしまった。
信号に近づいて、車が緩やかに減速する。
「よかった、笑ってくれましたね」
「えっ」
そして――
信号が赤にかわり、車は静かに停車した。