准教授 高野先生のこと

先生のブレーキのかけ方はとても丁寧だ。

まるでデクレッシェンドの記号を思わせるような滑らかな減速。

完璧なフェイドアウトのような収束。

きっと加減を知っていて無駄な踏み込みがないからだ。

だって、加減をわかっていない私のブレーキはいつだってガクンと衝撃があるから。


「機嫌、なおしてもらえますか?」

先生は無謀な身の程知らずだ。

笑いをとるのなんてちっとも上手じゃないのに。

授業中、学生に寒い思いをさせては、自分は痛い思いをしてるくせに。

もういいっくらい、さんざん学習しているはずなのに。


「こんな機嫌のとり方、ずるいです……」


高野先生のことが好き。


「機嫌なんてね、とったもん勝ちです」


先生はしれっとそう言うと、にっこり優しく微笑んだ。




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