准教授 高野先生のこと
先生が今一度座りなおしてシートベルトをしっかり締める。
「詩織さん、海はもうすぐそこですよ」
「先生」
「?」
「あとで……もしよかったら、私の初恋の話も聞いてくださいますか?」
こんなに好きになってしまったから、もう勇気ある撤退なんてできっこない。
そんな勇気があるならいっそ、思い切って新たな一歩に賭けてみたい。
「それは楽しみですね。ぜひきかせてください」
「きっと、びっくりしますよ……」
先生と私と、それから……私の決意と覚悟を乗せて車は再び走り始めた。