准教授 高野先生のこと

もう、こんな風に泣いてしまうなんて……。


自分の想いを上手に伝える術を知らない私の無言の告白だった。



「ごめん。辛い思いをさせてしまったね」



瞬間――


私は先生の腕の中にいた。



男の人に抱きしめられるのなんてもちろん初めて。


ぎゅっとじゃなくって、ほわっと。

私が纏う空気も、抱えたちょっとした戸惑いも、みんなみんな包み込むような。

ふんわりと優しい先生の抱きしめ方。



私は抱きしめ方も抱きしめられ方もわからずに。

先生の背中に自分の腕をまわすこともできずに。

ただただ、先生の胸に頬をうずめたまま、腕の中にすっぽりとおさまっていた。


先生の前でそんな私は、まるでいたいけな子どもだった。



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