准教授 高野先生のこと
そうだ、きっと靴を修理に出したときだ!
「靴の滑り止めをお願いしたところで?」
「うん。そのときに作ってもらったんだ」
ゆっくりと開いた手のひらの上には、銀色のピカピカの鍵が乗っていた。
「君が勉強をおろそかにするようなことはないだろうから心配はしてないよ。
必要なものはここへ置いておけばいいし、来たいときはいつでも来て欲しいなって。
君を信頼しているよって、君に賭けてるからねっていう。
なんていうか、そう、僕なりの意思表示とでもいうのかな。
どんな使い方をするのも君の自由、君次第だよ。もちろん返すのもね……」
「返すなんてそんなっ……!」
先生の世界から私が居なくなる?私の心から先生が居なくなる?
そんな日が来るなんて悲しくって怖くって、とても考えられなくて。
私の表情は、みるみるうちに不安いっぱい歪んでいった。
「ごめん、嫌なこと言った。ごめんね」
先生はいじらしい子どもを見るような目で私を見つめた。
「強がってカッコつけただけなんだよ。ほら、例の余裕があるフリってやつ。
ホントは返して欲しくなんかない。ずっと君が持っていて。
とにかく、僕は君に預けたから。ねっ?」
先生が、納得できた?大丈夫?って確かめるように私の顔をのぞきこむ。
私は返事をするかわりに、先生の体に黙ってこつんと頭突きした。