准教授 高野先生のこと
途中まで話して、寛行さんは大きなため息を一つついた。
そうして――
心の翳りを映したようなトーンを少し落とした声で続きを再び話しはじめた。
「こんなに努力してるのにわかってもらえないのは相手のせいだって……。
お互いに心のどこかで、そんなふうに思うようになってきたんだ。
今思うと――
僕はうすうす、そのときには関係のひずみを感じていたのかもしれない。
彼女は教員採用試験に合格して僕らは学生と社会人という関係になってね。
そして、ますますすれ違いが多くなった。
で、僕がD1のとき。
彼女はね、結婚したいって言ったんだ。
けど、僕には自分が学生で結婚するなんて考えられなかった。
だから当然、待ってもらうほかなかった。
だけど、博士課程の3年間は長いから……。
なにしろ大事な20代のほとんどを費やしてしまうことになるからね。
それでも、彼女も僕も別れようとは言わなかった。
たぶんね、勇気がなかったんだよ。
うまくいくって自信もなかったけど、別れる勇気もなかった。
結局は、待つほうも待たせるほうも限界ギリギリって感じになって……。
かなりボロボロになった挙句に、ダメになっちゃったんだけどね」