准教授 高野先生のこと

「だいたいね、世の中みんな妊娠出産を美化しすぎだってーの」

「美化?」

「まあ、美化っつうか神聖化っつうか」

言わんとすることが、わかるようなわからないような……。

「偉大なる母とか?母の偉業とか?なんつうか、そういうのたくさんなわけよ」

「はぁ……」

「確かに気持ちは大事だよ。けどね、あたしは科学の子だからさ。

妊娠中はさ、中の人の協力者として全力を尽くしてきたつもりだよ。

環境の貸与、栄養の供給、安全の確保、あとは、まあちょっとした情報提供とかね。

食事制限とか体重管理とか完璧だったし。

あんたにも教えてあげた呼吸法?あいつの予習だって完璧だもん。

もうね、模範的な妊婦でしたよ。

けど……。

ここまで来たらさ、あたしに出来ることなんてそんな無いと思うんだよね。

ドクターにはさ、中の人の安全を最優先にって言ってある。

自然にはこだわんないから、安全優先の判断で帝王切開して下さいってね。

なにしろ、あたしだって初めての経験でわかんないことだらけじゃん。

周りの人におすがりして、正しく他力本願するのが一番って思うわけ。

みーんなの力を借りまくって、頼りまくってさ。

“産む力”がどうとか?“産むのは貴女”とか?

あたしはそういうの、なんかちょっと、ね……。

あたしが産むっていうより、中の人が生まれてこようとしてるんだよ。

あたしはあくまでも協力者その1、脇役だかんね。

なんてーか、うまく言えないけど……ま、そういうこと」


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