准教授 高野先生のこと
純白のドレスに包まれたその人はまさに清らかで、そして、どこか儚げに見えた。
しげしげとハガキを眺める私の隣りに、寛行さんがゆっくり静かに腰をおろす。
「守ってあげたくて、守るために、何もかも承知で結婚を決めたんだなぁ、田丸は」
「何もかも???」
「うーん、複雑というか、むしろ根深いというか、信じられない話なんだけどね」
寛行さんは、とても難しい顔をした。
おそらく、森岡先生が言っていた田丸先生の結婚の訳ありの“訳”に違いない。
「詩織ちゃんは、自分はお父さんやお母さんに愛されて育ったという自覚がある?」
「えっ」
そんな質問をされたのは、生まれて初めてかも。
「普通に、愛されて大事にされて育ってきたなぁって思うけど……?」
「“普通に”って思うよね?僕もそう思ったもの。けどね、もしもだよ――」
寛行さんは、そこで一旦言葉を切って、私の手からひょいとハガキを取り上げた。
「実の親に“普通に”愛されなかったとしたら、その子どもは――」
……!
一瞬、心が凍りつくような感覚になる。
だって、そんなことって……!?
「あいつは、早く結婚して、自分が家族になってあげたいと思ったんだね」
寛行さんはそう言って、ハガキの中の初々しい“家族”をじっと見つめた。