准教授 高野先生のこと

並木先生は高野先生と私のそっけないやりとりを眺めていたけれど――

「そうだ鈴木さん、君が探していた本!」

「え?」

唐突に私が目下捜索中の文献の話を振ってきた。

「高野君……高野先生なら持ってるかもしれないよ?」

その本は絶版で、あいにく近隣の図書館にも所蔵されておらず。

国会図書館に問い合わせかなぁと諦めていたのだけど。

「何を、お探しなんです?」

高野先生が下がった眼鏡を右手でクイっとあげる。

相変わらずの女子学生に不評な銀縁眼鏡。


私が探している本の書名と著者名を言うと――

「ありますよ、それ。たぶん」

「えっ」

先生は今一度確かめるように、その書名と著者名を繰り返した。

「お貸ししましょう」

「よろしいの、ですか……?」

「もちろんです」

やや戸惑いながら答える私に、高野先生は優しくにっこり微笑んだ。

なんか、初めて見る表情かも……。

だって、授業中の先生は――

笑うときはいつだって、どこか自嘲気味な感じだったから。

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