Cold Phantom [前編]
「えっと、小さな山の山中…って言えば良いのかな。それで間違いないよ。」
「山?」
「俺は現場に居たわけじゃないし、山にも詳しい訳じゃない。ただ言えることは山中にいたって事しか言えないよ。」
「そう、ですか…」
私はそれを聞いて、吹っ切りのつかない心中のまま、ゆっくりと先生の腕から手を離した。
「すまない、こちらもまだ君の事について解らない事だらけなんだ。悪く思わないでほしい。」
「…」
先生がそう言って私の目線の高さになるように再び椅子に座った。
「不安になる気持ちは良く解る。記憶を失った人は見えない未来を必死に求めたくなるのは仕方がないのは良くわかる。でも俺達に解らない事が多いと言う以前に、解っていてもすぐには教えられないものなんだ。」
「それって、どう言う…。」
「君がもし、何かしらの精神的ショックで記憶喪失にかかっていたのなら、容易にその内容を言う事が出来ないんだ。君の精神を犯しかねないからね。」
「…すいません、何を言っているのかさっぱり…。」
「…その内解ってしまうかも知れないよ。」
「…。」
私は先生のその言葉を最後に黙りこんだ。
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