ギア・ドール

 朧新月210年7月23日


 何も飾られていない真っ白い壁に四方を囲まれ、簡素なパイプベッドと、五重に鍵がかけられている錠前式の扉意外には、見るものがない四畳半の部屋。


 窓がないため、天気を知ることすらできない。


 ここは、紫卯基地内にある捕虜収容所。


 私は、一週間前からその中で捕虜として捉えられていた。


 彼らを空襲で亡くして二年目の夏。


 あの時のような悲劇を繰り返したくない。


 その思いでアトランテ軍に志願したものの、たった二年でこの様では彼らに申し訳が立たない。


「そういえば、今日は私の20歳の誕生日だっけ?」


 70ワットの裸電球だけが、唯一の光源である独房の中。


 簡素なベッドに横になりながら、左手の薬指に目を落として口にする。


 もちろん、そこには何もつけられていない。


 だが、きっとあの日、彼がくれるつもりだったに違いないプレゼント。


 ・・・・受け取ることの出来なかった・・・最後のプレゼント・・・。


 自分の誕生日ということは、今日は彼らの命日・・・。


 二年たった。


「私の命日にするには、一番良い日かな・・・。」


 誰に言うでもなくつぶやく。


 このままだと、あいつらの人体実験に使われる。


 幸い、味方軍の攻略戦が始まっているため、基地中にエマージェンシーコールが鳴り響いていて、捕虜一人にそこまで気を配る余裕はないだろう。


 脱出するにしろ、命を落とすにしろ、今がチャンスのことには変わりない。

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