ギア・ドール
「どちらにしても、鈴蘭を救わなくちゃね・・・。」
そうでなければ、わざわざ命を賭けてまでこの基地に投降した意味がない。
戦力を客観的に判断しても、圧倒的に私たちの軍が優勢。
アトランテがこの基地を攻め落としては遅すぎる。
私は意を決して、ベッドから立ち上がると、ポケットからタバコを一本取り出し、火をつける。
武器となる危険性はないため、回収を間逃れた唯一の凶器。
女性が少ないこの世界では、レディファーストが、徹底している。
例え敵軍の捕虜であっても、ヘビースモーカーから、タバコを取り上げるなんてことはしないのだろう。
もっとも、私はタバコなんて吸うような女じゃないが・・・。
「・・・・・・・不味い。」
心から思う。
手を加えているから、味が少し変わっているとはいえ、やっぱり、こんなものを好きにはなれそうもない・・・。
そういえば、彼はタバコをよくふかしていたな・・・。
軽い感傷に浸りながら、私は、タバコを大きく一口だけ吸うと、火をつけたままのタバコを扉の取っ手に乗せる。
紫煙の味が口の中一杯に広がって、気持ち悪い。
普通の食べ物と違って、吐き出したぐらいではこの味は中々消えてくれない。
手の甲を口に付けて、その味を何とか拭い去ろうと、つばを吐き出す。
五回ぐらい、それを繰り返した後だろうか。
「!」
轟音が、私の耳を襲った。