ギア・ドール

「今行くよ・・・鈴蘭。」


 誰に言うでもない、決意の言葉。


 武器は、レベッタの改造銃が二丁と、サバイバルナイフが同じく二本。


 基地全体が敵だと考えると、なんとも心もとない武装だ。


 鳴り響くブザーと、エマージェンシーコールがこの基地の陥落を予見させる。


 そうなっては、遅すぎる。


 向かうは、機密格納庫。


 鈴蘭が・・・・正確には、鈴蘭だった(・・)ものが眠っている場所。


 うまく行く確立なんて極端に低いことぐらい分かっている。


 頭の中で何度もシミュレーションを繰り返したが、成功したことは一度もなかった。


 だけど、私には引けない理由がある。


 もう、何も残ってない。何も失うものなんてないんだ。


 だから、女として、最後の仕事をやらせてもらう。


 生まれてはじめて本気で命を懸けても良いと思えるほどの、強い決意。


 途中、男性用の軍服を着ている女性に対して、不審な目を向ける人間は多数いたが、幸か不幸かエマージェンシーコールが鳴り響くことによって、緊張が張り巡らされている基地内。一人の変わった兵士に声をかけてくる者はいなかった。


 発見される恐怖、後ろからいきなり撃たれる恐怖や緊張を自分の中で必死に押さえつけながら歩くこと、5分。


 私は、ようやく格納庫前に辿りつく。


 ここからが本番だ。


 おそらくここから先は、今までのように自分に顔を伏せているだけではやり過ごすことはできないだろう。


 私は格納庫に入る前にタバコを取り出し、火をつけて一息つける。


 先ほどの兵士から奪った軍服の中に入っていた私物の1つ。


 死刑囚が許される、最期の一服。


 相変わらず、不味い・・・。


 一口吸って、入り口に備え付けられている灰皿に捨てると、紫煙と共に気合を入れる。


 いくぞ!!
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