ギア・ドール

「まて、弁財天!貴様どこに行く気だ!!」


 先ほど、自分を最初に見つけた将校の声が響いた気がした。


 上下にゆれる衝撃が私を襲う。


 天井にぶつかったのだろう。


 弁財天は、胸のハッチを開くと、手を開き、私をそこにいざなう。


 乗れということなのだろう・・・。


 断る理由はどこにもない。


 おとなしく私は手の甲に足をかけると、胸のハッチから弁財天のコックピットに乗り込む。


 初めて入る弁財天のコックピット。


 レバーの配置、ペダルの場所。ボタンの種類。


 すべて、自分の知っているギア・ドールのコックピットとよく似ているのだが、何一ついじっていないのに、このマシーンは動いている。


 嫌でも痛感される事実。


 鈴蘭が、人工知能となり、この機体に組み込まれてしまったこと・・・。


 もう・・・鈴蘭が人間の姿に戻ることはない・・・。


「そんなこと・・・。」


 分かっている。


 それでも、私は彼をこの場から解放したかった。


 私の目から右目から涙の滴が垂れる・・・。


 その間に、手元のマシンガンを発砲して、瓦礫の山を浴びながら外に出る弁財天。


 灰色の空が、モニター越しに私の目を襲う。


 同時に鼓膜に響くのは、敵機確認を知らせる索敵ブザーと発砲音と爆発音。


 5キロと離れていない距離で、この基地を巡ってアトランテと虎神が攻略戦を行っているのだ。


 こんな建物をめぐって、本当に大量の人間が死んでいく。


 戦友のように・・・施設の後輩たちのように・・・・


 ・・・・・・ケィ君のように・・・・・・・・鈴蘭のように・・・・・・・・


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