西の狼
「「「……っ!?」」」

その時一瞬だけだがディアルド神父の顔が憎悪に歪んだように見えた。ガラルド達は一瞬息詰まる様な感触に襲われた。しかし次の瞬間にはディアルド神父の顔はさっきまでの穏やかな表情に戻っていた。

「…まぁ、今回のことで一気に戦局が変わることは無いと思いますが…」

「で、伝令!!」

ディアルド神父の言葉を遮って部屋に兵士が駆け込んで来た。

「何事だ!」

アイナが一喝すると兵士は自分がかなりマズい状況で部屋に駆け込んだことを理解した。
「し、失礼しました…ですが…!」

「構いません。話しなさい。」

女王が言うと兵士は救われた様に語り出した。

「はっ…先刻、共和国と連邦に放っていた密偵が帰還致しました。報告によると…双方がほぼ同時刻に帝国軍に遭遇。戦闘を行った様です。」

「…双方がほぼ同時刻にだと…?」

ガラルドは怪訝そうに言った。

「はっ…双方、帝国軍は数が少なかった様で程なく殲滅できた模様です。しかし、その帝国兵達も、飛竜騎士団が遭遇したのと同様に黒い炎に包まれて復活し…なす術無く、双方…全滅した模様です…」

その報告に誰もが言葉を失った。

「…ご苦労でした。密偵には休息を与えて下さい。下がってよいですよ。」

「はっ…!!」

兵士はすぐに部屋から去って行った。

「…まさか、全滅とは…」

「恐らくあれを闇の炎だと識別出来なかったのでしょう。あれは、光の魔法でなければ滅することは敵いませんから…」

「…まさか帝国は一気に攻勢に出る気なのでしょうか…」

「しかし、それではあまりにも利に適わない。今三大国の内の二つを同時に相手にするなど…政治的に見ても何の得も無い…むしろ、損害を被って終わりだ。」

「…確かに、その通りだ…では、他に目的があるというのか…」
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