5年先のラブストーリー-この世のしるし-
(回想シーン)
「ケイ、何をやってるんだ」
「直君」
「今、やろうとする事がどう言う事なのか分かっているのか。“この子の命を奪う権利が誰にある”」
「分かってるわよ。分かってるから、あなたをこんな事で傷つけたくないの」
健三は直子をずっと見つめ、己の腑甲斐なさに涙を浮かべた。
「恵子さんの命もいつまで持つか疑問を抱く中、出産すると言う事がどう言う意味を持つのか、二人が一番分かっていたはず。医者である私にはどうしても賛同出来なかった。その時です。工藤さんが言ったのは」
『先生に今、ここにいる恵子を殺す事が出来ますか』
「私に問おうとしたこの非情・無情・狂気に思わせた言葉。私には、到底理解する事が出来ませんでした。しかしそれは同時に恵子さんにも向けられていた言葉だったんです。
私も医者であるが故にこの世に誕生した命だけを守ろうとしました。
工藤さんはこう言いたかったのでしょう
『人を殺せない人間がお腹にいる生命は殺せる』
その道理を教えてくれと・・命を守る事において優先順位などないと悟らせていたんです。
恵子さんには充分なくらいその思いは伝わっていたでしょう。
生命の尊さは誰よりも分かっていた恵子さんです