みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~
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スイミングスクールからの帰り道、カナカナカナ……というヒグラシのどこか淋しげな鳴き声を聞きながら、斜陽の町を、ウチと各務くんが長い影を引きずりながら歩いとった。
「昨夜、一葉の意識が戻ったとき、アイツ、オレに向かってこんなこと言ったとぉ」
おもむろに彼がクチを開いた。
「“去年の絵画コンクールで、本当ならよっちゃんがもらうはずやった最優秀賞を、自分がもらってしまった”って。オレ、そぎゃんこつがあったなんて全然知らんやった……」
あのことはウチの15年間の人生の中でも、忘れてしまいたい出来事の一つや。
「一葉、よっちゃんが病院に来てくれたことを知って、“元気になったら、ちゃんとよっちゃんに謝りたい”って言っちょった……」
「………」
「アノ出来事は、絵の得意なよっちゃんのプライドば傷つけたんはもちろんやし、なかよくしていた一葉に裏切ったわけでもあるし、謝ったところで許してなんかもらえんかもしれんけんど……」
「………」