みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~
「けんど、一葉は賞をもらったのがよほど嬉しかったみたいで、あんときの賞状ば額に入れて部屋に飾って、今でも1日に何回かはソレを見上げてはニヤニヤしちょったとぉ」
空間の一点を見つめながら言う各務くんの、その瞳には在りし日の一葉が映っとったにちがいない。
「こんなこと……言い訳に過ぎんのは分かっちょるけど、一葉はオレにとって可愛い妹だけん、ちょっとだけアイツの肩ばもたせてもらうとやけど……」
そう前置きをしてから、各務くんは一人でしゃべり続けた。その声はとても静かで穏やかだった。
「これは一葉が言っちょったことなんやけど……よっちゃんは絵がうまいけん、今まで何度もコンクールに入選してきたし、多分これから賞状も何枚だってもらうと思う、って」
「………」
「けんど自分は絵もヘタクソやし、なんの取り柄もないけん、もし、この機会を逃したら、たぶん自分は一生、賞状なんてもらえんまま死んでしまうんやないか、って……」
「………」
「よっちゃんを裏切ったのは本当に悪いと思っちょる……だけんど、なんの取り柄もない自分のために、よっちゃんが自分がもらうはずやった賞状を、一枚だけ自分に分けてくれたって……」