みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~
「一枚だけ……自分に分けてくれた……!?」

思わず彼が言うのを繰り返しとった。

「……ずいぶんムシのよすぎる考え方やけど、そーいうふうに思ってもらえんやろうか? …って、昨夜アイツ言っとったとぉ」

「そっか……そーいうことか……」


確かにあのあと、また別のコンクールでウチは入選することがでけた。賞状ももろた。

ほんでもソレはウチにとって何枚ももろた賞状のうちの一枚でしかあらへん。

せやけど死んでもうた一葉にしてみれば、アノ最優秀賞の賞状は、まさに彼女が死ぬまでに一生に一度、一枚だけもろうた賞状や。

同じ一枚の賞状でも、彼女にとってはその重みが全然ちゃういうことやと思う。



それからわずか数秒の間やけど、ウチも各務くんもなんもしゃべらんと歩き続けた。

沈黙するウチら二人の代わりに、ヒグラシがカナカナカナ……と声を上げてくれはった。



「ええよ、ウチ……一葉のこと許したるさかい」

オツムの片隅には、まだあんときのくやしい感情が確かに残っとった。

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