契約の恋愛
タイムリミットは音もなく近づいていた。

雪葉は迷っていた。

真実を、大切な親友に伝えても良いものか。

でも、雪葉の中で少し璃雨への甘えが残っていた。

璃雨は強い人間だと。

自分なんかより、ずっと強い人間だと。

だからきっと、どんな事でも器用に対応してくれる。
そんな甘えが。

タイムリミットは近づいていた。

今ここで言わないと、璃雨は無防備なまま真実を知らなくてはいけなくなる。

でも…。

雪葉は無理やり作った笑顔でうなづいた。

「うん。お願い。」

とりあえず笑ってくれた雪葉を見て、安堵する璃雨。
「じゃあ、もうそろそろ戻ろうか。」

そう言って二人は立ち上がった。

璃雨はきっと、大丈夫。

雪葉は、璃雨の小さな背中を見つめながら、心の中でつぶやいた。

…高2の夏。

この変わりゆくものなんて何もないと信じていた日常。
平穏なまま、過ぎていくと信じていた時間。

何も知らないまま、死んでいくと信じていた自分。

今思うと…ね。

この高2の夏が来なければ、璃雨は間違いなく何も知らずに死んでた。
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