契約の恋愛
シレッとした声で、落ち着いているという演技をする。
いや、怒っているという合図かもしれない。

どっちでもいいが、言葉が出てこない。

話題が見つからないと言う方が正しいかもしれない。
ケータイ片手に固まっていると、璃雨?という優しい声で緊張が溶けた。

「あっ…うん。元気だった?」

「昨日も電話しましたよね?元気ですよ。」

相変わらずの敬語も慣れた今、紀琉は少しずつだが、距離というものをとらなくなった。

璃雨の方かもしれないけれど。

紀琉は、優しくて気がきくけれどどこか不気味さが漂う雰囲気を持ってた。

全身黒ずくめだし。

洞窟にひそむコウモリみたいな、時には人間を見下ろす鴉のような。
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