契約の恋愛
その真逆。

好奇心旺盛の琉衣は、芸能界に興味深々でやりたいと言っていたが…。

結局は諦めた。

というか…諦めざるをえなかったって所か。

あの…出来事のせいで。

「ほら~紀琉っ!!何ノロノロしてんだよ。ここここ!!一杯あんじゃん。」

うるせぇな…。

俺は朝に起こる急激なイライラを拳にためながら、草を無造作にちぎった。

「あ~!!根っこからっていっつも言ってんだろ。琉衣を見ろ、琉衣を!あの完璧な手さばきを。」

………。

俺は、キーキーうるさい恵流の声を避けるように背中を向ける。

周りは草を抜くブチッという音が響いている。

「ここんとこ紀琉はずっと機嫌悪いなぁ。反抗期始まっちまったかなぁ。」

はぁ~とため息を吐く、演技じみた恵流の挑発はとりあえずゴキブリをたたく雑音に等しいので、無視。

いちいち付き合っていたら身が持たない。

俺は少し遠目の草に手を伸ばした。

長袖のシャツが少し上にあがり、袖によって隠されていた腕の生々しい傷があらわになる。

俺はその傷を見つめながら、あれからもう一年か…と心の中で呟いた。
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