契約の恋愛
「…意味…ですか。生きる意味が見えなくなって、このまま何となく生きていく事に違和感を持ったからです。意味は…あまり、ないと思います。」

"あの人"が聞いたら怒るだろうな。きっと。

優しくて、強くて、生きることに常に希望を持っていた。

だから、今の私にはあなたが眩しくてたまりません。
でも、そんなあなただから、私は"恋"をした。

そして、今でも。

雨あがりの風はいつも生暖かったが、黒澤さんと私の間に吹き抜ける風はとても冷たく感じた。

辺りは人一人通らずに、アパートの真ん前にある小さな公園の大木が、死を語り合う私達を静かに眺めているように思えた。

黒澤さんの格好や雰囲気は、"夜"に交わりるように、闇に溶けこんでいる。

今度は、カラスのように。
この人にも、傘はいらないかもしれない。
不意にそんな事を思った。
黒澤さんは、私と微かな距離を保ちながら、惑う私に催眠をかけるかの如く語りかけた。

「なら…探します。」

「…はい?」

「死ぬ意味が虚ろなら、生きる意味をはっきりと見つけたらいいじゃないですか。そんな中途半端に死んでも、亡くなった先生がうかばれません。かわいそうです。」

熱も何もこもらない淡々とした彼の口調は、果たして本当に感情のまま言葉を発せているのかな。と疑いをもつ位、何もこもっていない。

けれど、遠回しに微かに"生きろ"と言われた気がしていた。

「一人じゃ見つけられないなら、私も一緒に探します。それでも上手くいかなかったら…好きにして下さい。ただ…これだけは約束して下さい。」

急に、彼の口調に熱がこもったような気がした。

「私達は、恋人同士です。だから、何でも言ってほしいんです。私は、璃雨さんから離れませんから。」

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