契約の恋愛
というより、自然に目についたというべきか。

璃雨は笑わない。

笑っていても、心から笑わない。

璃雨が何を抱えているのかは、雪葉も陸飛も知らない。
けれど、何かを抱えているのはわかる。

その"何か"が璃雨を取り返しのつかない場所まで引きずり落とそうとしている事を、2人は知るよしもなかった。

けれど、亮也だけは…。

亮也だけは気付いていた。
璃雨の本心に。

璃雨の願いを。

璃雨の夢を。

亮也は知っていた。

その理由の奥底には、悲しい過去があった。

「亮也。」

玄関を出て、フェンス越しの運動場を眺めていると、心配そうな表情をした陸飛が自分の顔を覗き込んでいた。

雪葉とかいう奴は、バイトがあると風のように去っていった。

ギャルのくせに、どこか真面目な性格が不思議な女。
そんな印象を持っていた。
璃雨も似たような事を言っていたような気がする。

亮也は、陸飛の真っ直ぐな視線から目をそらし、再び運動場に目をやった。

視線は自然とサッカー部の方へと向いていく。

本当なら、自分がいたはずの場所。

「…璃雨、彼氏できたんだな…。」

陸飛がしんみりと呟やく。
亮也は無言のまま。

「…大丈夫?」

ふと、陸飛がそんなことを聞いてきた。

その言葉が何をさすのかは言われなくても分かる。

「別に。璃雨が選んだ奴だったらいいんじゃね。」

自然と口調がぶっきらぼうになっていく。

陸飛が苦笑いで呟いた。

「心からそんな事思ってないくせに。亮也さ、もうそろそろ自分の気持ちに素直になったら?」

「彼氏できたあいつにか?無理。面倒くさい。」

「またそんな事言う。どうして自分の事もっと優先しないの?亮也だって璃雨のこと好きなくせに。」

ぶーっとほうをふくらます陸飛。

「サッカーだって、強い高校から声かかってたのに辞めちゃうしさ。亮也さ、何かがまんしてるっぽい。」
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