盲目の天使
言われてみれば、それは、単純な答えだった。
「風が、においを運んでくれたのです」
「におい?」
「はい。香をたいておられるのではありませんか?
甘い香りがしたので、てっきり女性かと思ったのですが・・」
目の見えないリリティスにとって、五感のうち、視覚以外の四感は、
おそらく通常の人よりも優れているのだろう。
彼女にとっては、日常の、何気ないことであったが、
アルシオンにとって、それはとても興味深いことだった。
「なるほど。私はさっきまで、母の部屋にいたのです。
母はいつも香をたいています。おそらくその時に、衣に匂いが移ったのでしょう」
オルメとルシルは、アルシオンと同じように、心の中で納得した。
匂い、か・・・。
リリティスの中に、なんとなく自分が刻まれたような気がして、
アルシオンは、にこにこと、笑顔になった。
今度は、母の匂いではなく、自分の気配に気づいてもらいたい。
できれば・・・、自分だけの、気配に。